※るろ剣1本・ピスメ3本・ドリフ3本の144字作文です。



144字掌編集 1




◎るろうに剣心

何をしたい? 何が欲しい? 問うても少年は微笑むばかり。「僕は今のままで十分ですから、欲しいものはありません」。「それなら嫌なことは?」これで「ない」と答えたならば「では死ぬこともか」と返してやるつもりだったのに、相手はぽかんと虚を突かれたような顔をして、結局何も答えなかった。


◎PEACE MAKER 鐵

「職務だから」「殺したのは不逞の輩」、そんなことは言い訳にならない。たとえ無辜の一市井人でも、あの人の命とあらば何ためらうことなく手に掛けたに違いないのだから。そうして人を殺しながら感じていたのは、紛れもなく歓喜――愛する人に少しでも近づけるという、身勝手な至福の感情だったのだから。


「そんな、綺麗なものじゃありませんよ」。右手を視線で指しながら「名誉の負傷なんですか」と問うと、一瞬間目を伏せて、けれどすぐにいつもの顔に戻って、それだけを答えた。右手の皮膚を擡げてはしる五筋の傷痕。彼の人の体で唯一醜いそこには、あの目にきざしていたのと同じ影が詰まっているのだろうか。


人気のない活動写真館の裏手に、ならず者の群れに囲まれた老人。助けなきゃ! でも敵うわけないよ。正義感と恐怖心のせめぎ合いは、不運なチンピラたち諸共に呆気なく片付けられてしまった。「こう見えてもけっこう腕は立つんだよネ」振り返った少年のような笑顔には、シミとともに無数の雀斑が散っていた。


◎ドリフターズ

「分かってるよね、お前にはこれしかない」喋りながら、細っこい指を摘み上げる。「でも大丈夫。たとえこの指が折れたって、僕はお前を側に置いてやるから」そう言うと、伏せていた目を上げて、縋るような眼差しを向けてきた。「だから」摘む指先に力を込めた。「いいよね、やっちゃっても?」


無遠慮にばら撒かれた金属の礫。己の矢を物ともせぬ化物を瞬く間に薙ぎ払った、鉄の弩のものだ。「大丈夫。僕は与一の弓じゃなくて、与一自体が気に入ってるんだから」声が聞こえた気がした。もう従わぬと決めたのに、差し延べられた甘美な指先に縋りつきたくなる。


神はあれを悪魔と呼ぶのだろうか。人はあれを魔女と呼ぶのだろうか。構わない。彼女は――我らに命と居場所をくれたあの黒衣の少女は、確かに我らの神だったのだから。




 ツイッター風の144字作文です。
 なぜ140字ではなく144字なのか。それは単なる作者の趣味です(だって素敵じゃありませんか、12の2乗)。
 一部は書きかけの短編のワンシーンを抜き出したものなので、いわば予告編のような感じになっています。






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