※義経×与一で、いわゆる女性向け要素があります。ご注意下さい。


144字掌編集 2




「そいつ、運んどいて」主は事も無げにそう命じた。閨に立ち入ると、か細い少年の体が床に投げ出されていた。意識はない。残された痕跡から、その身に何があったかは歴然としていた。曹子まで運んでやり、翌朝主と顔を合わせても何も問わなかった。愚直な忠節というものの安楽さを、この時初めて知った。


男達の暴虐に晒され、疲れ果てた体を横たえて、少年は眠り続けている。せめて身を清めてやろうと衣服に手を掛けると、途端に目を覚ました。一瞬目を見開き、身を竦ませて、けれどもすぐに目を閉じて手足に込めた力を抜いた。「誤解だ」そう言いさして、しかしその言葉を飲み込んだ。


少年を送り届けて曹子を出た途端、主と出くわした。「お前は律儀だねえ」その言葉の意味するところが分からず狼狽していると「何のためにいつもお前をあいつにつけてると思ってるの」主が他の者にも少年を抱かせているとは知っていたが、それに加わる気はなかった。加わるまでもなく、既に自分は共犯者だった。


昼間の少年は弓の稽古に一心に励んでいる。打ち込めることがあるのがせめてもの救いだ。主はといえばその様子を所在無げに見遣っていたが、何を思ったか少年の矢の一本を摘み上げた。「兄さんから貰ったんだってさ」そう言いながら今にも矢をへし折りそうな主の指先を、自分はやはり見つめているばかりだった。


眼前の事態を理解するのに、どれだけの時間を要しただろう。衣服を寛げようとする少年を慌てて振りほどき、曹子を離れた。交合を求める囁き、誘う眼差し、触れる指先――鳥肌立つ程に妖艶なそれらが当分頭から離れなかった。そうして自ら奉仕することが彼の唯一の自衛法なのだと知るには、さらに時間を要した。


主に対しては忠節を尽くした。武辺一辺倒の自分にはただ従うより他に忠節はなかったのだと、心の内で但し書きをつけて。そしてその言い訳を最期まで貫いた。最期をもたらしたのは、無数の矢だった。一本また一本と己に突き立つそれらは、報いという言葉を想起させた。




 再び144字作文です。
 調子に乗って書いているうちに続き物風になり、ならいっそそうしてしまえと続き物にしてみたところ、なんだかとても卑怯臭い書き方になってしまいました。






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