※土方×沖田で、いわゆる女性向け要素があります。ご注意下さい。


144字掌編集 5




*peacefulness
「あれは、酒に酔わずに血に酔う性だ」「何でも血に欲情するというぞ」。あの人の、そんな噂話がまことしやかに交わされる。もちろんそれは――あの人が事を仕遂げた後に見せる至福の笑みに由来するにしても――事実無根の妄言だ。あの人にとっては血など、別段心を動かすものでも何でもないのだから。
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私の仕事振りについて「なぜそこまでするのか」と問われたことがある。「辛くはないのか」「苦しかろうに」と。苦しいのは確かだ。でも苦痛は、私にとって喜びでもある。苦しければ苦しいほど、きっとそれは難しいお仕事だから。それができれば、あの人に少しでも近づけるような気がするから。


*Love is pain.
「痛くして下さい」行為の最中にそう言うと、案の定貴方は眉を顰めた。「痛いのがいいんです。中だけじゃなくて、体中全部。傷痕になるといいな」「馬鹿を言うな」「ふふっ、だって……」。痛みでも傷でもいい、少しでも長くこの体に刻み付けておきたい。貴方がくれたものなら、何だって宝物なのだから。
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「歪んでるよネ」「いけませんか?」「生きにくいでしょ?」「それは歪んでいるからではなく、歪みを矯めようとするからでは?」。図星だった。ただし、あいつが言うのとは逆の立場にとって。「うん。だから、ツライんだよねェ……」。在りの儘でいいじゃないか。なんて、そうできない気持ちは分かるけど。


*carrot and stick
仕事の結果を報告すると、貴方は副長の顔をして、私の成果を褒めてくれる。次も同じくらい頑張ろう。でも退がりしな、振り向いた私の目に映る貴方の背中は、ちっとも私を褒めてくれない。次はもっともっと頑張ろう。
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「そんなに仕事が好きか?」「好きですよ。ちゃんとできたら、土方さんが褒めてくれるかもしれませんから」「薬を飲めたら褒めてやる。大人しく寝ていたら褒めてやる」「だめですよそんなの。ちゃんと、土方さんのお役に立てて、喜んでもらえることじゃなきゃ」。ああ。やはりこいつは、何も分かっちゃいない。


*to waste or not
「副長は、貴方を捨てはしません。たとえ貴方が剣をふるえなくなったとしても」。どうにか患者を静養させようとして、そう言った。引き合いに出した人物から言質を取ったわけではないが、当たっているという確信はあった。だが患者は、にっこり笑って、予想外の答えを寄越してきた。「だからですよ」。
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「傍にいたい」「離れたくない」そう言えば貴方は私を傍に置いてくれる。たとえ役立たずになった私であっても。私はそれが怖いのです。否応なしに貴方の足枷にされることが、何より恐ろしいのです。ねえ、土方さん。使えなくなった道具は、ちゃんと捨てて下さいね。


<おまけ>
*Peacemaker
この一年、総司にまつわる俺の記憶は、ゆっくりと鮮やかさを失っていった。このまま俺が生きていれば、やがてそれは色褪せ、音色も匂いも、ぬくもりも消えていくのだろう。もしかすると、それこそが総司の望んだ俺の平安なのかもしれない。冗談じゃない。そんな平安なんざ、死んでも御免だ。




 ピスメの144字作文です。side沖田さん&side他の人となるように、2本ずつペアにしてみました。
 今回のテーマは、「土方さんが好きすぎておかしい沖田さん」です。沖田さんが若干病んでます。
 出来上がってから読み返してみたのですが、「露」読了以前のイメージが投影されていますね。今となっては少々原作と噛み合わない内容かもしれません。まあいいや。






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